職場のハラスメントは、様々な経営上の損失、さらには会社の将来の成長にも大きな影響を及ぼしかねないリスクになります。前回は、損害賠償などの事業主の法的リスクをみてきましたが、今回はそれ以外の経営上のリスクについて確認していきます。
職場のハラスメント問題で会社が提訴され、多額の賠償金を支払うことになれば、それ自体も大きな経営リスクですが、ハラスメントはそれ以外の経営リスクもはらんでいます。以下では、3つのリスクを取り上げます。
1.職場環境の悪化による生産性の低下
ハラスメントは、個人の尊厳や人格を不当に傷つける許されない行為です。被害者はその精神的・肉体的苦痛により就業意欲が大きく損なわれ、場合によっては休職や退職につながることもあります。また、ハラスメント行為は、直接の被害者ばかりでなく、それを見たり聞いたりする周囲の従業員にも悪影響を及ぼし、人によってはメンタル不調を引き起こすこともあります。
こうして職場の雰囲気が悪くなり、人間関係が悪化していけば、退職者や休職者を出す可能性が高まります。そうなると他の従業員に業務のしわ寄せが生じ、負のスパイラルによって職場全体の生産性が低下することになります。これは経営上の大きなリスクといえます。
2.人材の流出・不足
職場でハラスメント問題が起こると、被害者や加害者が退職に追い込まれるケースも少なくありません。それだけでも会社にとって損失ですが、加えて、会社のハラスメント対応への不満や不信感を抱いた周囲の従業員が、雰囲気の悪い職場に嫌気がさして退職するといったことも耳にするところです。
このような場合、退職の連鎖が生じることがあります。例えば、人望の厚い従業員の退職を契機に、その後を追うように次々と従業員が退職するといったケースです。他社でも十分に通用すると考えられる優秀な従業員から順に辞めていくということもよく聞く話です。これは人材流出という極めて大きな経営リスクであり、会社の将来の事業計画への影響も避けられません。
3.企業イメージの低下と業績悪化、採用難
最近はインターネットなどを通じて容易に情報が拡散されるようになっています。従業員がSNSや掲示板などに職場のハラスメント行為などを書き込めば、瞬時に世間に広まり、企業イメージ、企業への信頼が大きく損なわれることが起こり得ます。
こうした評判・風評によるリスクレピュテーションリスクといいますが、企業イメージの低下によって、顧客が離れ、売上や利益といった業績が悪化するほか、人材の採用・確保の面でも多大な経営リスクとなることが考えられます。
以上、3つのリスクをみてきました。
各事業所においては、階層を問わず、組織・職場の一人一人が、「ハラスメントは企業経営を直撃する」ことを、改めて強く認識した上で日々の業務に臨むことが必要といえるでしょう。